2002年5月4日(土・祝)
いつもの休日とは違う朝がやってきた
柔らかな光が差し込む部屋
鏡の前で悪戦苦闘している

(ん、もぉ〜、髪がー!!全然決まらない!)

普段やらない事には必要以上に時間がかかるもので
鏡と時計とを交互に見ながら、もう30分以上もこうしていた
カーラーで何度か巻き髪にしてみたが
どうにも、自分でも笑ってしまうほど似合わない

(もう仕方ない、取り合えずこれで留めておこう)

はブラウスに合わせて買った
ピンクのバレッタで両サイドの髪を留めた


待ち合わせの森林公園入口
は15分前に着いたので
そこにはまだ 「葉月 珪」 の姿は無かった

(ちょっと早すぎたかなぁ・・・)

ふっと肩の力が抜けて、は小さく背伸びをする
頭上には、優しい水色
ポツンポツンと白い雲が浮かんでいる
は両の手を大きく広げ、息を吸い込んだ


・・・待たせたか?」

驚いて目を開けると、葉月がそこにいた

「あ・・・!ううん、私も今来た所だよ」

「・・・そうか、その服・・・」

「・・・え?」

「似合うな・・・そういうの。好きだよ・・俺」

思いもよらぬ葉月の言葉だった

「本当?ありがとう!」
(良かった−!この服にして、葉月君気に入ってくれた!)


二人は一面に広がる芝生を眺められる木陰に腰掛けて
取りとめもない話をしていた
もっとも、話し掛けるのはの方で
葉月は

「・・・うん」
とか

「ああ・・」
とか言うだけだった

学校の事、葉月がしているモデルのバイトのこと
が葉月にインタビューしているような会話が途切れ

・・・、おまえ、気持ち良さそうだった。・・・さっき」

と葉月が話し掛けた

「え?さっきっていつ?」

「待ち合わせの場所で・・・深呼吸してたろ・・・、手広げて」
「は、葉月君見てたの?」
「ああ・・・、4回・・・だった」
「えーー!?そんなに前からいたなんて・・」

「・・・その前は、背伸びしてた・・」
「ぁぅ・・・」

真っ赤になるだった

「昼寝・・・していいか?飽きたら起こしていいから・・・」
「うん・・・、解かった」

寝転がった葉月は、暫くすると微かな寝息を立てていた
は閉じられた瞼の長い睫毛を見つめていた

(葉月君、本当に寝るのが好きなんだ
 のんびりできる場所って公園を選んだけど
 まさか・・・本当に寝るとは思わなかったな
 でも、もしかして?
 私と話しているのが詰まらなかったとか?
 ・・・ん〜〜、それは違う、違うはず
 そうだよ、もし嫌なら
 「眠いから帰る」って言うよね、葉月君なら)

芝生広場では、あちこちで親子連れがお弁当をひろげていた

(もうお昼なんだ
 お弁当・・・、全然考えてなかったな
 今度来る時には、頑張って作ってみようかな
 葉月君、どんなお弁当なら喜んでくれるんだろう
 あ、それより、私が作れるものって、何?
 お料理、勉強しようかな)

葉月は、相変わらず起きる様子など無かった
規則正しく繰り返される葉月の胸の動き
暫く眺めていただが
そのリズムにつられるように、まどろみの中へ落ちていった


コツン

足に何かが当たる

(ん?)

葉月が気だるそうに瞼を開けた
上体を上げ足元を見ると、黄色いボールが落ちていた
見回すと少し離れた場所で少年が手を振っている
放り投げると、少年は小さくお辞儀をして仲間の元へ戻っていった

ふと視線を落とすと、葉月の横でが眠っている
葉月自身は、どこでも眠ってしまう
しかし、誰かが横で眠っているというのは初めてだった
何も不安な事など無いように、柔らかな表情で眠っている
学校で見るのとは違う、カールした髪
ほんのりと紅い唇
午後の日の光を浴び
額には薄っすらと汗が滲んでいた

(こいつ・・・、なんで俺に電話してきたんだろう・・)

葉月はまた寝転がり、の横顔を見つめていた

(あんなふうに・・・、背伸びしたり深呼吸したり
 そうして、大きくなったんだろうな、こいつは・・・)

不意に、が寝返りをうち、葉月と向き合う格好になった

「・・・ん」
微かに開かれたの唇から、声がもれる
それでも、葉月は、飽きることなく見つめていた

突然、のパッチリとした目が開かれる
必然、葉月の視線と鉢合わせた

「・・・・」
「・・・・・・」

お互い何を話してよいのかも解からず流れる沈黙
堪らず葉月が

「・・・腹減ったな。俺・・・何か買ってくる」
と言った

「うん。私も・・行こうか?」
「・・・いや、ここに居てくれ」

木々のざわめきが二人を包んでいた
そして
五月の風は、二人の心にも波を立たせた



END




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